この記事は中谷の個人的なまとめです.
三連四重極型質量分析計 (triple quadrupole mass spectrometer, QqQMS) とは,四重極型質量分析計を連結させた質量分析計.一番目と三番目の四重極がQMSと同じ役割を持つため大文字のQで表現されている.二番目の四重極部分はコリジョンセルと呼ばれ,不活性ガスを衝突させることでフラグメンテーションを起こす (衝突誘起解離, collision induced dissociation, CID) 部分であり,役割が通常の四重極と異なるため,小文字のqとして表現されている.三連四重極型質量分析装置は、Q1とQ3でSIMやScanモードが可能であり,その組み合わせで多様な測定モードが利用できる.以下でそれぞれの測定モードについて解説する.
プロダクトイオンスキャン (Product ion scan)
- 特定m/zのイオンをフラグメント化させた時のプロダクトイオンをScanする方法
- Q1をSIMモードにして特定のプリカーサーイオンを選択し,Q2でフラグメント化させ,Q3をScanモードにして一定範囲のm/zを持つフラグメントイオンを測定
- Q1で選択したイオンの構造解析に有効
下で解説するSRM (or MRM) のQ3選択イオンの探索に良く使います.未知ピークに対しても良く使います.
プリカーサーイオンスキャン (Precursor ion scan)
- 特定m/zのプロダクトイオンを持つプリカーサーイオンのm/zを特定する方法
- Q1をScanモードにして,通過したイオンをQ2でCID法によりフラグメント化して, Q3をSIMモードにして特定のフラグメントイオンのみを検出している
- プロダクトイオンがどのようなイオンから由来したかを知ることができる
使用感としては,低分子化合物でこのモードを使う場合はノイズが高いためかピークはほとんどみえませんでした.例えば,リン酸や硫酸やグルクロン酸のプロダクトスキャンはなかなか難易度が高い印象です.また解析ソフトもそれほど充実していないように感じます.
ニュートラルロススキャン (Neutral loss scan)
- フラグメンテーション時に特定質量 (中性フラグメント) が抜けるプリカーサーイオンのm/zを特定する方法
- Q1をScanモードにし,Q3は衝突室でロスする質量の分だけ小さくしたm/zでScanする
- 上の例の場合は,a-b=162 (一定:糖骨格抜け)
多重反応モニタリング (Multiple reaction monitoring)
選択反応モニタリング (Selected reaction monitoring)
- 特定のプリカーサーイオンから出てきた特定のプロダクトイオンを測定する方法
- Q1をSIMモードにし,ターゲットのプリカーサーイオンを透過させたのち,Q2でフラグメント化させ,Q3のSIMモードでターゲットのプロダクトイオンを透過させる方法
- 選択性が非常に高い
- 夾雑物を排除することによりS/N比が向上するため高感度である
- MRMあるいはSRM (公式にはこちらが正しい) と呼ばれるが,宗教的な理由で私はMRMと呼ぶことが多いです