メタボロームの物理化学的性質の多様性

 メタボロームは物理化学的性質の範囲が広いという特徴があります。物理化学的性質には、例えば、分子量 (~2,000まで)、極性 (低極性から高極性)、電荷特性 (陽イオン性、両イオン性、陰イオン性、非荷電) や分子の立体構造 (キラリティ) といったものが挙げられます。図には、私たちの研究室で所有している合計715種類の標準品化合物の分子量とオクタノール/水 分配係数 (n-octanol/water partition coefficient, logPow) の値を示しています。分子量からは構造的な多様性が、logPowからは化学的性質の多様性の一端が伺えると思います。これに加え、さらに電荷特性や立体構造の違いなども考慮すると、メタボロームの物理化学的性質の複雑さが実感できるのではないでしょうか。このような物理化学的性質の複雑性が、単一手法でこれら全ての代謝物を測定することを難しくしています。
 メタボロームの分析では、分析の難易度を少しでも下げるために、前処理によりメタボロームを「水に溶けやすい」親水性代謝物と「油に溶けやすい」脂溶性代謝物 (脂質) に分けることで比較的物性の近いものをまとめ、これらを別々に分析することが一般的です。特に、脂質の総体はリピドームと呼ばれ、リピドームを解析する技術・学問はリピドミクスと呼ばれています。また、疎水性のリピドームとの対比から、私たちは、前者の親水性代謝物の総体を親水性メタボロームと呼んでいます。親水性メタボロームは単にメタボロームと呼ばれることもあります。メタボローム解析とは、これら親水性メタボロームとリピドームの総体解析と言えます。
 しかしながら、メタボロームを親水性メタボロームとリピドームの二つに分けたとしても、それぞれを単一分析で測定することは困難であるのが現状です。複雑な生体成分の混合物の中から個々の代謝物を同定・計測するためには、サンプルや測定したい代謝物に応じた適切な分析手法の選択が重要になります。馬場研究室では、あらゆるサンプル・測定化合物に対応できるようにするため、様々な分析方法を開発してきました。私たちがこれまで開発してきた分析の選択肢を、ホームページでは一部紹介したいと思います。研究室メンバーには、研究室で様々な分析技術や分析のノウハウを学び、自分が使える分析の選択肢を広げて欲しいと思っています。分析の選択肢を増やしながら、サンプルと測定対象に応じた適切な分析手法の選択ができる、分析のプロ目指して一緒に頑張りましょう。(「分析技術の開発」に続く)

馬場研で扱っている分析機器
・液体クロマトグラフ
・ガスクロマトグラフ
・超臨界流体クロマトグラフ
・質量分析計
・吸光度検出器/フォトダイオードアレイ検出器
・水素塩イオン化検出器
・示唆屈折率検出器
・荷電化粒子検出器
・etc.