食事により摂取した脂質や新たに肝臓で合成された脂質は様々な組織へと輸送されます。疎水性の高い脂質は血液に溶けることができないため、周囲をタンパク質で覆った「リポタンパク質」を形成することで血液中に分泌されます。リポタンパク質は密度の違いによりカイロミクロン (Chylomicron, CM)、超低密度リポタンパク質 (Very low density lipoprotein, VLDL)、低密度リポタンパク質 (Low density lipoprotein, LDL)、高密度リポタンパク質 (HDL) に分類され、それぞれ異なる機能を果たすことで脂質の輸送において重要な働きを担います (図1)。一方で、これらのリポタンパク質の量が崩れると心筋梗塞や狭心症、脳梗塞など動脈硬化性疾患を引き起こすことが知られています。例えば、LDLコレステロール (悪玉コレステロール) の増加やHDLコレステロール (善玉コレステロール) の減少により、動脈硬化性疾患のリスクが高まります。しかし近年、リポタンパク質の量だけでなく質も動脈硬化に関与することが指摘され、疾患に伴うリポタンパク質の脂質組成の変化がこれらの質に影響を及ぼしている可能性が考えられています。そこで、我々はリポタンパク質粒子の脂質組成を定量的に評価する方法を開発しました1,2)。
リポタンパク質の構成成分であるアポリポタンパク質はリポタンパク質リパーゼの活性化や活性阻害、LDL受容体との結合など様々な作用をもち、一連のリポタンパク質代謝を制御しています。その一つであるアポリポタンパク質B-100 (apoB-100) はリポタンパク質1粒子につき1分子だけ存在します。血漿から超遠心分離したリポタンパク質画分を二分し、超臨界流体クロマトグラフィー三連四重極型質量分析とナノ液体クロマトグラフィー三連四重極型質量分析を用いて脂質分子とアポリポタンパク質をそれぞれ定量しました。定量したapoB-100の濃度を元に粒子数を算出し、画分に含まれる脂質分子の量を粒子数で割ることでリポタンパク質粒子の脂質組成を決定しました (図2)。本手法では、リポタンパク質粒子の脂質組成を決定できるだけでなく、アポリポタンパク質により制御されるリポタンパク質代謝の変動を追うことができるため、リポタンパク質の質に関する新たな知見をもたらすことができると期待されます。
参考文献
- H. Takeda, T. Koike,Y. Izumi, T. Yamada, M. Yoshida, M. Shiomi, E. Fukusaki, T. Bamba: Lipidomic analysis of plasma lipoprotein fractions in myocardial infarction-prone rabbits, J. Biosci. Bioeng., 120, 476-482 (2015).
- H. Takeda, Y. Izumi, A. Tomita, T. Koike, M. Shiomi, E. Fukusaki, F. Matsuda, T. Bamba: Lipoprotein profiling methodology based on determination of apolipoprotein concentration, Bioanalysis, 9, 9-19 (2017).