シングルセルの分解能でのオミクス解析は、様々な分子の発現に基づく細胞の不均一性を実証してきました。しかし、ナノフロー液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(nano-LC/MS/MS)を用いたショットガンプロテオミクスでは、少量サンプルからのプロテオーム解析は依然として困難でした。そこで、細胞を回収してそのまま溶解し、溶融シリカキャピラリー内でビーズ固定型トリプシンにより消化する、in-line sample preparation for efficient cellular proteomics (ISPEC) という方法を我々は開発しました。ISPEC法は、比較的少数の哺乳類細胞(<1000細胞)を用いたサンプル調製プロセスにおけるサンプルロスを最小限に抑えることができ、さらにビーズ固定型トリプシンを用いたことで従来法と比較してタンパク質消化における安定性と消化効率が向上しています。最適化したISPEC法とnano-LC/MS/MS分析を用いると、100細胞、10細胞、1細胞から、それぞれ1351、351、60のタンパク質を同定することに成功しています。各ペプチドのシグナル強度が導入細胞数に対して直線的に変化することから、非常に少ない細胞数からプロテオームを定量的に回収できることが示唆されます。今回開発したISPEC法により、小さな細胞集団の定量的プロテオーム解析が容易に実施できるようになり、プロテオームと細胞不均一性の研究を今後加速させていくものと思われます。
・Kosuke Hata, Yoshihiro Izumi, Takeshi Hara, Masaki Matsumoto, Takeshi Bamba, Anal. Chem., 2020, 92, 4, 2997-3005
・本研究は2018年5月に開催された 日本質量分析学会・日本プロテオーム学会2018年合同大会にて優秀賞を受賞しました
・本研究は2019年12月に開催されたHPLC 2019 KyotoにてACS Poster Award (2nd place) を受賞しました